火星居住基地の怪死

 

 

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(いらすとやおよびhuman pictogram2.0より)最初の怪死患者に会った医師の夏目田です。病因を探り始めて遺族に聴き取りを開始します。その時に”グルメ”という言葉を耳にしますが・・・(はたして?)。

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目次

第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者(以上済んだよ)
第三章:遺族への聴き取り(今回)
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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・・。 故人同士で接触する機会もなさそうで目を引く手掛かりはなかったが、6名のうちB氏の息子家族とC氏の娘家族は現在火星居住基地の住民となっていた。

(以上前回まで)

 

  この病因不明の患者は急に増える様子もなかったので、夏目田博士は空いた時間にB氏の息子に会いに行き、彼の父親について話を訊いた。 特に役立つような情報はなさそうだった。 聞き取りが終わり雑談に入ると、夏目田とB氏の息子は共にジョギングが趣味で、居住区マラソン大会参加で二人共既にエントリーしていたことがわかった。

 「そう云えば父の趣味はグルメで、月居住基地のグルメクラブと言う同好会に入っていましたよ。 月では食べれなくなった分厚いステーキや魚料理が懐かしいとよく話していたのを覚えています」
と夏目田を見送りながら思い出したようにB氏の息子。 夏目田は話の礼を言った。


  夏目田は帰宅後、
「B氏については参考になりそうな話はなかったなあ。 まあ、次はC氏の娘にも会って一応話を聞いてみるか」
と、その日は床に就いた。


  後日C氏の娘の都合の良い日に夏目田は訪問した。 案の定C氏の病因に参考になるような話はなかった。 話を切り上げようとする時に、夏目田は何気なく、
「バドミントン以外にC氏は何か趣味はありましたか? そうですねえ、例えばグルメとか・・。」

「ええ、子供の時に地球で食べた味が忘れられんとよく言っていました。 月居住基地では、海産物を食べたことがないし肉も高級品で口にする機会も少ない。 そのためかグルメクラブとかいう同好会に入って、同じ食経験のある同年配の人達と食卓を囲み昔話を楽しんでいたようです」

とC氏の娘。

 

(次回に続く)

火星居住基地の怪死

 

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(いらすとやより)前回より登場している夏目田です。患者を診察する臨床医だけでなく医学を研究する基礎研究者でもあります。趣味は・・・(その内文中に出ます)。

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目次

第一章:腫瘍の分離(済んだよ)
第二章:火星居住基地での奇妙な死者(今回)
第三章:遺族への聴き取り(今回)
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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・・。 夏目田も承認し、取りあえず対症療法としての薬剤投与と点滴が行われてしばらく要観察となった。 体内で病原菌や中毒物質は検出されず、こうした外部からの危険物の取り込みが病因ではなかった。 

(以上前回まで)

 

火星居住基地は小さな密閉空間なので居住民の安全へは厳重に管理されていた。汚染物質や感染症のモニタリングは厳密で、危険地域と判断されると居住民には進入禁止が周知される。 また、危険物と分類された場合には追跡調査され、その使用やリサイクルでは表示や記録が保存されていた。 A氏への薬剤投与は症状改善に有効とならず、多機能幹細胞(iPS細胞)由来の組織・臓器を移植して治療するには準備期間が不足し、残念ながら回復することなく約2週間後に亡くなった。 閉鎖された居住区間では、老衰以外の死亡の原因は他の居住民の健康のために明らかにする必要があった。 死体検査ではやはり多くの臓器での障害の悪化が報告された。 しかしながら、なぜ多くの臓器で傷害を受けているのかは不明のままであった。

 

第三章:遺族への聴き取り
「病因は何なのだろう?」と夏目田博士。 

遺族にA氏の日常生活を尋ねても特に思い当たることはなく、遺族や職場の同僚など身辺に同様な健康上の問題を抱えている者もいなかった。 こうして数週間が経った時に、夏目田博士は、
「火星居住区では同様な患者のケースは見当たらなかったので、月居住区住民まで調査対象を広げてみるか?」
月居住基地医療センターにアクセスし、「原因不明の多臓器不全」で住民カルテを検索すると過去に6名の死亡例が見つかった。  この6名は、消化器あるいは呼吸器の不具合に始まり最終的に多臓器不全で死亡したとのこと。 共に男性、年配である以外は職業や勤務先も異なり、やはり病因は不明となっていた。 故人同士で接触する機会もなさそうで目を引く手掛かりはなかったが、6名のうちB氏の息子家族とC氏の娘家族は現在火星居住基地の住民となっていた。

(次回に続く)

火星居住基地の怪死

 

 

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(いらすとやより、今回より登場する夏目田博士です。今後よろしく)

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目次

第一章:腫瘍の分離(済んだよ)
第二章:火星居住基地での奇妙な死者(今回)
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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(前回からの続き) 

への居住者は2千名に達しようとしていた。 しかしながら、母なる地球は自然破壊や核戦争による環境汚染が進み、汚染物の持ち込みを防ごうと地球と月の間の人や物資の行き来は次第に小さくなった。

 

  夏目田博士は月居住基地から火星居住基地に初期に移住してきた人物で、医学部門医学研究・医療ユニットに所属するリーダーの一人だった。 彼の両親は地球から月への移住組であり、彼は月居住基地生まれである。 医者であり医学分野の研究者でもある彼は、火星居住基地の住人の健康や衛生管理に役立とうと月居住基地より家族とともに移住して来たのだった。 そもそも、父親の代で地球外に居住空間の拡大を探り始めた人類の先鋒として家族で月に移って来たのだった。 医者であった父親は月居住基地で居住民の健康や衛生環境の維持に尽力し、近年亡くなっている。


  医療ユニットのテレビ電話が鳴り、夏目田が出た。 医療スタッフから、体調不良の患者の来院の知らせだった。
「患者はA氏で、体調不良で自宅で休養していたが良くならないので来院した? わかった。すぐ行く」
夏目田博士は仕事柄火星居住区民全員の健康記録を管理する立場にあったが、火星の比較的狭い居住区間では住民との個人的な付き合いも広かった。 A氏は火星居住基地の食料部門で働いており、A氏の父親と夏目田の父親は月居住基地で懇意にしていた関係で子供の頃からの知人であった。


  人工知能診察装置に人の手を入れると血液一滴を自動採血し、疾患名・要治療の有無・治療法等が表示される。 A氏は多臓器の障害で薬剤投与と点滴が必要であった。 夏目田も承認し、取りあえず対症療法としての薬剤投与と点滴が行われてしばらく要観察となった。 体内で病原菌や中毒物質は検出されず、こうした外部からの危険物の取り込みが病因ではなかった。 

(次回に続く)

火星居住基地の怪死

 

SFショートショート (手塚治虫からの伝言)

SFショートショート (手塚治虫からの伝言)

  • 作者:治虫, 手塚
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: コミック
 

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独り言:何故牛かって?今回出てくるよ。

 

目次

  • 第一章:腫瘍の分離
  • 第二章:火星居住基地での奇妙な死者
  • 第三章:遺族への聴き取り
  • 第四章:グルメクラブへの訪問
  • 第五章:食の調査
  • 第六章:死因の調査
  • 第七章:ウイルスと病因
  • 第八章:エピローグ

 の予定です。 (以上前回まで)

 

  • 第一章:腫瘍の分離

 19XX年にある国の牧場で一頭の病牛が見つかった。元気そう失で背部に腫瘤があり、獣医により腫瘍が疑われ、家畜衛生試験所にて詳しい検査を受けることになった。
 「筋肉の良性腫瘍だが、他の部位への転移はなく、牛の生命を脅かすほどではなさそうだ。 稀な疾患なので、研究用に細胞培養と検査用の組織サンプル保存をしておこう」
 こうして、培養液の中で増殖可能となった腫瘍細胞は、研究者の興味を引く研究対象とは中々ならず凍結保存されたままになって年月が経っていった。 後年の遺伝子解析技術の大幅な進歩により分析対象となったが、遺伝子の小変異は認められるものの死をもたらすような悪性腫瘍となる可能性は少ないと判定されることになる。

 

  • 第二章:火星居住基地での奇妙な死者

 2XXX年において人類は既に火星に居住空間を建設していた。 人口爆発や環境汚染により地球外に居住空間を求めた人類は、まず月に居住基地を建設して住むようになり、約40年経ち2万人程までとなった。地球と月の間では人、物の行き来があったが、月での定住が安定してくると、人類は約20年前より、月から火星にさらに新居住空間を求めて移住した。 

 現在、火星への居住者は2千名に達しようとしていた。 しかしながら、母なる地球は自然破壊や核戦争による環境汚染が進み、汚染物の持ち込みを防ごうと地球と月の間の人や物資の行き来は次第に小さくなった。

(次回に続く)

火星居住基地の怪死

 

f:id:herakoimFujito:20200902193954p:plain (いらすとやより) 

[ブログ開設のご挨拶]

 <火星居住基地の怪死>今回より公開するSFショートの題名です。記念すべき第1作目です。 このオリジナルのSFショートは投稿経験があります。 今回は、より理解しやすいようにと書き改めまして、本ブログで無料公開することとしました。  

  内容は、地球以外の移住基地の住人に、食習慣を容易に変えられないために食物を介したウイルスの感染が起こったらしいという話です。 

 たまたまですが、新型コロナウイルス感染が世界的に拡大して死者も出て、人々はまるで宇宙基地に移住した人類のように行動範囲を制限せざるを得ませんでした。 従来より世界人口増は続いており、近い将来地球外の生活が現実なものとなるかもしれません。 そんな時には制限された空間において思いも寄らない出来事、例えば未知のウイルス感染等が起こるかも知れません。 楽しんでいただければ幸いです。

 登場人物は親しみやすいように、夏目漱石でなく夏目田博士、森鴎外でなく外森博士、北里柴三郎でなく柴里博士と聞き覚えのある名前の研究者にしました。 

 また、本小説は忙しい方々にも楽しんでいただけるように、1から3分間で立ち読みできる連載の形式にしました。 

 小説の内容には以下のような項目が関係関連項目しておりますが、より詳細な内容を知りたい方はウィキペディア辞典などを見てください。

火星

グルメ:食通

移植マウス:(バカンティマウスが有名)免疫異常で移植拒否できないげっ歯類

内在性レトロウイルス:宿主遺伝子に遺伝子が入り込んでいるウイルスの一種

異種指向性マウス白血病ウイルス関連ウイルス:マウス白血病に関連するウイルスの仲間のうち、げっ歯類よりも他の動物種により感染しやすい内在性ウイルス

アポトーシス:自殺による細胞死

遺伝子の水平伝播:宿主細胞から別の宿主細胞へ内在性ウイルスが感染することにより(宿主遺伝子の一部を含む)ウイルス遺伝子が新たに伝染が拡がること

 なお、目次は以下の予定です。

  • 第一章:腫瘍の分離
  • 第二章:火星居住基地での奇妙な死者
  • 第三章:遺族への聴き取り
  • 第四章:グルメクラブへの訪問
  • 第五章:食の調査
  • 第六章:死因の調査
  • 第七章:ウイルスと病因
  • 第八章:エピローグ

(次回に続く)