火星居住基地の怪死

 

 

SFマガジン 2021年 02 月号 特別増大号

SFマガジン 2021年 02 月号 特別増大号

  • 発売日: 2020/12/25
  • メディア: 雑誌
 

  

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動物による抗癌剤スクリーニング試験(mふじと画)

 

  まずは、あけましておめでとうございます

 本年も当ブログを楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願い申しあげます

 

 さて、コロナ禍が世界的に治まる様子がなく、ワクチンが承認され始め接種が始まりました。それに伴い副作用例も報告されるようになってきました。 

 本来なら、ワクチン候補の毒性、有効性など段階的試験を実施して薬として認可可能かどうか判定していくべきなのでしょうが、いかんせん世界的な感染者数の右肩上がり、当然それに伴う死者数増が加速している緊急事態です。試験が同時並行のようになっても致し方ないですね。

 感染力の強い変異型ウイルスも出てきているそうなので、認可されたワクチンが同時に有効であってほしいですよね。有効なワクチンが世界中あまねく行き渡るようになるまでは、自身のためだけでなく、いろいろな事情で抵抗力が落ちている他の人の健康のためにも、まずは3密を避けるよう心がけましょう。

 

 ところで、ワクチンの話から入りましたが、今回のブログの内容において抗癌剤を開発する時の一部の試験の話がちょこっと出てきます。わかりやすくするつもりで上記のような絵にしてみました。

 は正常であった体の一部が、持ち主?の都合を無視して増え続け、ついには正常な部分を圧迫して本来の機能ができなくして死に至らしめる病気です。

 抗癌剤には癌細胞に直接働いて増えるのを邪魔するタイプのものがあります。しかし、いくら試験管内の癌細胞をやっつけても、正常細胞や患者にも副作用があればダメです。

 もちろん、いきなり癌患者で試験をするわけにもいきませんので、ヒト癌細胞を移植した小動物(小さなスペースで飼育できるマウスのようなげっ歯類など)で試します。動物に副作用がなく癌細胞がなくなればよいわけです。正常動物は移植を拒絶するので癌は大きくなれませんが、移植可能動物は免疫機能に欠陥があり拒絶できなくて癌は大きくなります。移植可能動物は感染抵抗力も弱いので清浄区域で飼育します。

 ちなみに、癌細胞に作用するのではなく免疫力を強化することにより癌細胞を排除するタイプの抗癌剤で、最近有名なのが一般名・ニボルマブ(商品名・オプジーボです。開発の業績により京都大・本庶佑先生にノーベル賞が与えられました。

 

 絵は参考になったかなあ?

 

  

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目次

第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問(以上済んだよ)
第五章:食の調査(今回)
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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・・・月居住基地の食品衛生対策として、地球からの生物の持ち込みには宇宙ステーションにて検疫を義務付けており、原則として口にする食事は加熱処理されている必要があった。  

 

 調査を進めると、少量生産であるが月基地で開発された食肉供給システムが見つかった。

 

(以上前回まで。今回は「第五章:食の調査」途中から) 

 

 

 

 

 他種動物の肉の細胞先天的な免疫異常移植拒絶できない小動物に移植して肉の細胞を成長させ、肉塊となったところで取り出すシステムである。 

 

 このシステムは、当初死因のトップの癌を研究するために居住基地に持ち込まれた。  

 癌研究において、凍結保存されていた種々の癌細胞や癌組織に対する抗癌剤候補の治療効果の評価のために、ヒト癌患者のモデルである癌移植動物が利用された。 

 癌細胞を移植されると免疫異常の動物は拒絶できずに体内で癌が成長し大きくなるが、動物に有力な抗癌剤候補を投与すると副作用が少なく癌の成長を抑えられるのである。 試験管内での抗癌作用の評価より、より人体内に近い状態での抗癌効果を評価できるのである。 

 動物は取り扱いやすさから、通常小型齧歯(げっし)類である。 医学研究者である夏目田博士は、この担癌動物による薬剤評価システムの医学的意義を当然熟知していた。 

 

 夏目田は、元来医学研究目的であった担癌動物システムが、地球からの食糧供給がほぼ絶たれた月居住基地において、どのような経緯で食料供給策の開拓においても利用されたか調査し始めた。 

 そもそも限られたスペースの移住基地での牛豚のような大型家畜の飼育は、無理なのである。

 

(次回に続く)