火星居住基地の怪死

 

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(いらすとやより)前回より登場している夏目田です。患者を診察する臨床医だけでなく医学を研究する基礎研究者でもあります。趣味は・・・(その内文中に出ます)。

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目次

第一章:腫瘍の分離(済んだよ)
第二章:火星居住基地での奇妙な死者(今回)
第三章:遺族への聴き取り(今回)
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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・・。 夏目田も承認し、取りあえず対症療法としての薬剤投与と点滴が行われてしばらく要観察となった。 体内で病原菌や中毒物質は検出されず、こうした外部からの危険物の取り込みが病因ではなかった。 

(以上前回まで)

 

火星居住基地は小さな密閉空間なので居住民の安全へは厳重に管理されていた。汚染物質や感染症のモニタリングは厳密で、危険地域と判断されると居住民には進入禁止が周知される。 また、危険物と分類された場合には追跡調査され、その使用やリサイクルでは表示や記録が保存されていた。 A氏への薬剤投与は症状改善に有効とならず、多機能幹細胞(iPS細胞)由来の組織・臓器を移植して治療するには準備期間が不足し、残念ながら回復することなく約2週間後に亡くなった。 閉鎖された居住区間では、老衰以外の死亡の原因は他の居住民の健康のために明らかにする必要があった。 死体検査ではやはり多くの臓器での障害の悪化が報告された。 しかしながら、なぜ多くの臓器で傷害を受けているのかは不明のままであった。

 

第三章:遺族への聴き取り
「病因は何なのだろう?」と夏目田博士。 

遺族にA氏の日常生活を尋ねても特に思い当たることはなく、遺族や職場の同僚など身辺に同様な健康上の問題を抱えている者もいなかった。 こうして数週間が経った時に、夏目田博士は、
「火星居住区では同様な患者のケースは見当たらなかったので、月居住区住民まで調査対象を広げてみるか?」
月居住基地医療センターにアクセスし、「原因不明の多臓器不全」で住民カルテを検索すると過去に6名の死亡例が見つかった。  この6名は、消化器あるいは呼吸器の不具合に始まり最終的に多臓器不全で死亡したとのこと。 共に男性、年配である以外は職業や勤務先も異なり、やはり病因は不明となっていた。 故人同士で接触する機会もなさそうで目を引く手掛かりはなかったが、6名のうちB氏の息子家族とC氏の娘家族は現在火星居住基地の住民となっていた。

(次回に続く)