火星居住基地の怪死

 

 

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(いらすとやより、今回より登場する夏目田博士です。今後よろしく)

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目次

第一章:腫瘍の分離(済んだよ)
第二章:火星居住基地での奇妙な死者(今回)
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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(前回からの続き) 

への居住者は2千名に達しようとしていた。 しかしながら、母なる地球は自然破壊や核戦争による環境汚染が進み、汚染物の持ち込みを防ごうと地球と月の間の人や物資の行き来は次第に小さくなった。

 

  夏目田博士は月居住基地から火星居住基地に初期に移住してきた人物で、医学部門医学研究・医療ユニットに所属するリーダーの一人だった。 彼の両親は地球から月への移住組であり、彼は月居住基地生まれである。 医者であり医学分野の研究者でもある彼は、火星居住基地の住人の健康や衛生管理に役立とうと月居住基地より家族とともに移住して来たのだった。 そもそも、父親の代で地球外に居住空間の拡大を探り始めた人類の先鋒として家族で月に移って来たのだった。 医者であった父親は月居住基地で居住民の健康や衛生環境の維持に尽力し、近年亡くなっている。


  医療ユニットのテレビ電話が鳴り、夏目田が出た。 医療スタッフから、体調不良の患者の来院の知らせだった。
「患者はA氏で、体調不良で自宅で休養していたが良くならないので来院した? わかった。すぐ行く」
夏目田博士は仕事柄火星居住区民全員の健康記録を管理する立場にあったが、火星の比較的狭い居住区間では住民との個人的な付き合いも広かった。 A氏は火星居住基地の食料部門で働いており、A氏の父親と夏目田の父親は月居住基地で懇意にしていた関係で子供の頃からの知人であった。


  人工知能診察装置に人の手を入れると血液一滴を自動採血し、疾患名・要治療の有無・治療法等が表示される。 A氏は多臓器の障害で薬剤投与と点滴が必要であった。 夏目田も承認し、取りあえず対症療法としての薬剤投与と点滴が行われてしばらく要観察となった。 体内で病原菌や中毒物質は検出されず、こうした外部からの危険物の取り込みが病因ではなかった。 

(次回に続く)