火星居住基地の怪死

 

6600万年の革命 (創元SF文庫)
 

 

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薬と消化不良(いらすとやより)

 

 

 

 夏目田博士の依頼により、病死患者の病因を突き止めるために生化学者の外森博士が共同研究に参加します。 夏目田博士には心強いばかりです。

 

 最初の怪死の患者では、病因がアポトーシスつまり細胞の自殺である可能性が出てきました。 アポトーシス細胞自殺については前回紹介しました。

 

 一方、夏目田博士の医療部門に入院してきた患者で胃腸の調子のよくない方がおり、治療の効果がでなくて精密検査をしてみると・・・・。

 

  

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目次

第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問

第五章:食の調査(以上済んだよ)
第六章:死因の調査(今回)
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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・・・ 夏目田の頭の中では、グルメクラブという共通点から食事の関与の可能性が次第に気になり始めていた。 しかしながら、グルメクラブのメンバーが特別な、違法な物を食材に使用しているとは考えられなかった。

  

(以上前回まで。) 

 

  こうして夏目田が病因を探る検討をしている中、入院中のD夫人が胃腸炎で治療の効果が認められずに衰弱しているとスタッフから報告を受けた。 

 

 D夫人は、火星居住基地の拡張計画部門に属しており、月居住基地内の火星移住希望者について月基地担当部門との情報交換や、受け入れの新火星居住地区の建設を調整する担当グループメンバーであった。 

 最近担当している業務が忙しくて、食欲不振は疲労がたまったせいかなと思っていた。 __そういえば年1回の定期健診もいつもより遅くなったなあ。 

 

 業務が一段落したところで医薬部門を訪れ、消化不良胃腸に炎症が見つかった。 最初は通院していたが、薬で改善が見られなかったので入院して治療ということになったのだ。 

 グルメクラブのメンバーのリストにD夫人の名前はなかったので思いも寄らなかったが、付き添い家族の実姉との面談の最後に夏目田が「グルメクラブについて何か聞いたことありますか?」と尋ねると、
「そういえば父親がグルメクラブ、そんな名前だったかな? そのメンバーで、本人が子供の頃にメンバー家族として父親が連れて親睦会に参加してたようでした」

と古い記憶を思い出しながら

「妹は小さい頃に父親が大好きで、よく付いて回っていた時期がありましたね。 ただし、本人はクラブそのものに興味があったわけでなく、今までクラブ・メンバーになったと聞いた覚えはありませんね」


  夏目田博士と外森博士は、D夫人の通常検査に特に異常はなかったため胃腸の組織を採取して調べることにした。 具合の悪い所を詳しく調べようということである。 消化管内カメラで胃腸の粘膜、つまり通過する食物と接する面の組織から、体に負担がかからない程度に異常部位の少量の組織を掻き取るのである。 

 組織の顕微鏡拡大像においては、死細胞とそれをおそらく除去しようとする炎症細胞が若干多いように見られた。 また、おそらく死細胞においてと思われるが、機能面では細胞の自殺活性が比較的高目になっていた。 しかし、細胞に毒性を示すような重金属蓄積や病原菌は見つからなかった。 

 夏目田博士には、可能性を消去していくと食事の関与の可能性がどうしても拭いきれなく、疑うとすれば食物材料か調理中の混入物の何かが死亡の原因ではと推察されたが、また新たな疑問も出てきた。
「D夫人の様に子供の時のグルメクラブでの食事が原因とすると、年配になってから悪影響の出てくるモノってはたして一体何が・・?」

 

 

(次回に続く)