火星居住基地の怪死

 
 
最終人類 上 (ハヤカワ文庫SF)

最終人類 上 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

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図:正常ヒトDNA未知のDNAの組込まれたヒトDNA

 患者の患部の組織・細胞から見つかったのは、正常なヒトのDNAの中に由来が不明なDNA。 この未知のDNAが病気に関係?原因? 調べるとげっ歯類のウイルスに似。ペットなどの動物から患者に感染した???

 

 

  

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目次

第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問

第五章:食の調査(以上済んだよ)
第六章:死因の調査(今回)
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ

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 それから、微生物感染の可能性を考えて、まずはウイルスを検索していき、検索にヒットするようにウイルスの種類を広くしていくべく検索条件はゆるくしていくということで合意した。

 

(以上前回まで。) 

 

 こうして遺伝子データベースを検索すると、A氏の保存患部組織サンプルからのDNA配列に類似した遺伝子として見つかったのは、げっ歯類のウイルス遺伝子2種であった。 

 1種はげっ歯類の遺伝子に組み込まれている異種指向性レトロウイルスと呼ばれるウイルスであり、もう1種はそのウイルス遺伝子の一部が変化しているウイルスであった。 

 

 ヒトには持続的に感染するウイルス病が存在する。 ヘルペスウイルス類(単純ヘルペスウイルスやEBウイルスなど)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV),ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)など。 なかでも、HIVHTLVは人の遺伝子内に組み込まれる。 ただし、血液細胞に限られるが・・。 

 感染予防法や抗ウイルス剤が存在することにより、地球外居住民への検疫対象とはなっていない。 死亡率が高いような病原体はともかく、各居住基地内で適切に対応できるような感染は、それが居住基地への移住不可の理由にはなっていない。 

 そもそも、ヒトは何らかの感染を受けており、感染体を完全除去することは不可能である。 健康であるということは、何にも感染していないということではないのである。 

 普段は病気を起こさない感染体が、ヒトが老化や病気で抵抗力が低下すると病原性を示すようになる場合が知られている(日和見(ひよりみ)感染という)。 地球で病原性がほとんどなかった感染体が、地球外基地という異なる環境下で予想外の深刻な病原性を示すようになった場合には対応していくしかない。 


 外森博士には、オーソドックスなヒト感染ウイルスの可能性は頭の隅にあったのだが。 しかしながら、A氏の遺伝子がげっ歯類のウイルスとその変異ウイルスの組み込みを受けているとは意外であった。 

 もちろん、大型動物は無理だが小型の齧歯類は地球外の居住基地へ人類とともに輸送されており、なかにはペットとしての飼育も許可されている。 確かに、基地居住民はげっ歯類動物との接触がゼロではないのだが・・。 
 感染を何らかの機会に受けたと外森博士は推測することにした。 当然、ウイルスを保有しているのは基地内のげっ歯類の可能性が最も高かった。

 どうして動物ウイルスが病死の人の患部組織から見つかるのか、まったく不明だった。 患者のペットからか? それとも、無関係のサンプルが検査時に混入した人為的ミスなのか? 

 外森博士は、以上の結果を夏目田博士に報告した。

 

  

(次回に続く)