火星居住基地の怪死

 

 

 

 

 

 

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左図:正常細胞(ヒト、ウシ及びげっ歯類)(”いらすとや”より)右図:細胞死プロセス(mふじと画)

  怪死の原因を究明している夏目田博士達の共同研究グループは、怪死患者の患部の組織からDNAを抽出し、その中から怪死の病因と疑われる遺伝子を取り出した。

  この病因候補の遺伝子が患者の怪死に本当に関係があれば、培養細胞(上記の左図)に取り込ませたら細胞死(上記の右図)を起こさせる可能性大。

  正常細胞としてヒト、ウシ及びげっ歯類の3種類の細胞を用いて、怪死患者由来の遺伝子を取り込ませる。

  果たして、細胞死プロセスを観察できるのか? また、3種類の細胞で違いは?

 

  今回のブログでは話の筋はどうなっているのかな?

  

 

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目次

第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問

第五章:食の調査

第六章:死因の調査

第七章:ウイルスと病因(現在はここ!
第八章:エピローグ

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  つまり、ウイルスが検出された動物は、生まれつき自分の遺伝子中にウイルス遺伝子が入り込んでいると思われる。 

  ウイルスを持つ動物の種類が限定されたので、今後すべきことは個々のげっ歯類を詳しく調べて変異ウイルスを見つけることである。

  

(以上前回まで。) 

 

 

  外森博士は別のアプローチもした。 

  元々はげっ歯類のウイルスが別の生物に感染し、その生物の遺伝子の一部をウイルスの遺伝子内に取り込み、そのウイルスがさらにヒトに感染したために感染細胞が死に至ったと考えられる。 

  感染した細胞が死ぬのは、ウイルスが取り込んだ未知の生物の遺伝子のせいであるの可能性が大。 

  そこで、外森博士は怪死患者から死んだ患部の組織を取り出し、薬剤で組織を破壊してDNAを抽出した。 

  ついで、酵素でDNAを切断し、問題の未知生物の遺伝子部分だけを取り出した。   

  取り出した遺伝子を“細胞内への運び屋”にくっつけて、ヒト細胞、ウシ細胞、げっ歯類細胞にそれぞれに取り込ませた。  

  さらに、細胞には無害な薬剤で刺激して、取り込ませた遺伝子を働かせてやると、ヒトとウシの細胞は死に、げっ歯類細胞は死ななかった。 

  もちろん、“細胞への運び屋”だけや、まったく無関係の遺伝子とくっつけた運び屋では細胞は死ななかった。 

  念の為に未知の生物の遺伝子をDNA合成機で同じものを作り、“細胞内への運び屋”にくっつけて取り込ませても細胞は死んでしまった。 

  死んだ細胞では、いずれもある酵素の働きの上昇が見られた。 
  つまり、外森博士は科学者らしい実験によるアプローチにより、注目した遺伝子がまさにある種の酵素を働かせることにより細胞死をもたらすことを証明した。

 

  以上の実験結果と注目の遺伝子の配列を解析したことにより、不完全なウイルス遺伝子の中に取り込まれた酵素活性を上げることにより細胞死が起こり、しいては人の怪死の病因となったものと結論付けられた。 

  ただし、ウイルス感染能力を持たない不完全なものなので、どのようにしてこの不完全ウイルスが人に感染できたのか? 

  感染ルートの解明ができれば、この病気の治療または予防が期待できるのだが。 

 

  ヒト及びウシ細胞で死を誘導し、げっ歯類細胞では死ななかったのは進化が関係すると考えられた。 

  つまり、ヒトとウシは進化系統樹では近い関係にあるが、ヒトとげっ歯類、あるいはウシとげっ歯類は遠い関係にあり、そのため、酵素はヒトやウシで働きやすい環境にあるが、げっ歯類では働きやすくないのだと。 

  実際、怪死患者からの細胞死の遺伝子の配列は、ヒト、ウシ、げっ歯類の本来の細胞死の遺伝子配列と比較すると、げっ歯類よりヒトあるいはウシの遺伝子により似ていた。 

  やはり、怪死の原因となった遺伝子は、予想通りヒトやウシの細胞でその機能をより強く発揮できるようだ。

 

 

(次回に続く)