異星人(カグヤ姫)は、職業上定例の薬草採取に来ていた老夫婦一行に偶然竹の中に見出されました。
しかし、この偶然の出会いは、カグヤ姫の養父母を探していた異星人達により何年も前に周到に計画されたものだったのです。
異星人の思惑通り老夫婦により異星人の赤ん坊は引き取られました。
予定の薬草に、燃料の薪に、全く想定外の赤子まで加わった一行はいよいよ都への帰途に着きます。
里山から、河川の側を通り、田園地帯を抜けて都まで景色は変わっていきます。
今回は我が家へとやや急ぎ足ですが、いつもの採取旅行の帰りのように各地の特産品は手に入れますー野鳥、獣肉、エビ・カニ・魚等の水産物、穀物野菜。
裕福な老夫婦は都でも望むものは手に入りますが、弟子や使用人は家族を含むと大人数ですので、やはり安くて鮮度の良い物をこの機会に持って帰ります。
栄養についても知識がある老夫婦は、気前良く一門のために、特に育ち盛りの者のためにも手に入れていきます。
都に近づくと、治安のための足軽の姿も認められるようになり、一行も我が家に戻ってきたと実感するようになります。
本SFショートではカグヤ姫は異星人として描かれています。
この異星人は、地球で言えば昆虫に似た生物です。
しかも、彼らの住む星では全く異なる2つの生物より成る社会を作っています。
1つは大部分を占める生物(被寄生種)ですが、もう1つは少数派で多数派の生物に気付かれないように擬態の能力により多数派に紛れて生存(寄生)しております。
カグヤ姫は少数派の(寄生種)生物に属します。
カグヤ姫達異星人は、故郷の星が環境破壊などで住みづらくなり、一部は他の星での生存を期待して故郷の星を出発しました。
しかしながら、移住船での居住星の探索の旅の途中に仲間を感染症で失います。
残ったカグヤ姫達の生残には、ライフサイクルの維持に不可欠なパートナーと成りうる(被寄生種)生物を見つけないといけません。
つまり、失った仲間がやってくれていた子孫の生育を、かわりに地球人の手を密かに借りようと企てます。
勿論、異星人の擬態能力で外見は地球人です。
育ての親候補として人の良さそうな老夫婦が選ばれた訳ですが、果たして異星人達が目論むようにカグヤ姫は育っていけるのでしょうか?
異星人達は、世界中に出されたカグヤ姫のような里子達が、幸福な生活を送れるように願いながら観察を継続していきます。
何故なら場合により、異星人達は地球を離れて新たな移住星候補を探索する旅に出なければなりません。
本SFは、題名の通りカグヤ姫を含む異星人達の立場でみた物語です。
さて、かぐや姫が出てくる「竹取物語」ですが、あらためてWikipediaを見てみますと、平安時代に成立した物語で、作者不明で、正確な成立年も未詳とあります。
「源氏物語」の文中にも記述があり、日本最古の物語だそうです。
9世紀後半から10世紀前半頃に成立したとされる、かなによって書かれた最初期の物語の1つだそうです。
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目次
第1章:異星人
第2章:地球
第3章:カグヤ姫(現在はこちら!)
第4章:求婚
第5章:領主三角(みかど)氏
第6章:カグヤ姫の憂鬱
第7章:帰還
第8章:エピローグ
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(前回まで)
異星人達は、カグヤ姫が今後一緒に暮らすようになる老夫婦の使用人や弟子達の子供達の外見、行動、成長過程等の情報を大まかには知らせていた。
老夫婦の家で一緒に暮らすようになった後からは、地球人の子供のDNAを含む分泌物や髪の毛、爪等は、カグヤ姫により密かに採取されより良い擬態のために利用されることになる。
こうして、カグヤ姫が老夫婦に出会う前に擬態の段階は着々と進められていたのだった。
老夫婦は、予定を早めて帰京の準備を指示した。「赤ん坊のために少し早めに家に帰ろうや」
使用人や弟子達は、牛に引かせる荷車に今回採取した薬草及び前回までに乾燥保存していた薬草を乗せた。
家の在庫の薬草に補充するのだ。
また、台所や風呂、暖房などに使う薪も次回の採取旅行までの予定の補充分を乗せた。
持ち帰る量は大体いつも通りであったが、今回は思いがけず赤子を連れて帰ることになった。
「荷車が揺れるから、赤子の竹のゆりかごの下に木の葉や草を敷いて揺れんようにしようか。 直射日光が眩しくないよう日陰となるように覆いをつけてくれんかな」
帰りは予定より早まったが、荷車の速度はゆっくりしたものだった。
しかも、老夫婦は途中の小休憩を頻繁に、しかも長めに取った。
その度毎に、老夫婦は赤ん坊を抱っこしながら「可愛い、可愛いのう・・」
前回までの採取旅行は、持ち帰るものが薬草や焚付、薪であり、また久しぶりに家族の顔が見れる使用人や弟子達は疲れていても足取りは軽かったのだが、今回は時間がかかりそう・・。 まあ仕方が無いか・・。
老夫婦一行は里山の薬草園施設を出発した。
定期的な旅行なので、使用人達にも顔なじみの漁師や農家が道中にできる。
運が良ければ、里山近くでは鳥や卵や動物肉、川付近だと魚などの水産物、田畑の近くでは農産物を薬草との物々交換で家に持って帰れる。
町中にある我が家でも手に入るが、やはり値がはり鮮度も落ちる。
折角の田舎まで来る機会なのだが、今回は残念ながら入手量は少な目だった。
実際、都への帰途、都の市場へ物資を運搬する荷車をたくさん見かけた。
また、都に近くなると弓や刀で武装している足軽の姿も目にした。 都の安全のための警備に関わっているのだ。
こうした老夫婦一行やその周辺の動きを異星人の赤子(カグヤ姫)は感じ取れていた。
見た目は地球人の赤ん坊と違わないのだが、つまり地球人のふりをすることができていたのだ。
老夫婦一行をずっと観察していた、異星人スタッフともコミュニケーションを取っていた。
つまり異星人スタッフとカグヤ姫の話す内容とは、
「小型侵入艇の着陸地点は、“人間”という地球の支配生物が踏み入らない山間部であったが、 山麓部には”村“があり、住人は植物を住居周辺で栽培したり、他の生物を狩猟したりして生活していた。
村の住人は少し離れた、人間がより多数で住んでいる”町“へ物々交換するためにたまに行くようである。
町や村への移動は徒歩や、家畜と言う他の生物を利用して行き来している。
人間同士の争いでは刀と言う武器で相手を殺してしまう残忍さがある。
ただ、すべての人間が刀を使用するわけではなく、本来多くの人間は好戦的ではないようである」というような事。
(次回に続く)