火星居住基地の怪死
病因なのか?
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目次
第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査(以上済んだよ)
第六章:死因の調査(今回)
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ
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どうして動物ウイルスが病死の人の患部組織から見つかるのか、まったく不明だった。 患者のペットからか? それとも、無関係のサンプルが検査時に混入した人為的ミスなのか?
外森博士は、以上の結果を夏目田博士に報告した。
(以上前回まで。)
夏目田博士は外森博士の研究室もある研究棟で、一般人対象の健康講座での講師の仕事があった。 その仕事を終えた後に、階下にある外森研究室へと向かった。 外森博士には、研究室近くで健康講座の仕事があり、仕事の後に外森研究室に顔をだすかもと連絡はしていたのだ。
居住基地の人達は概して健康に対して熱心で、講演後の質疑応答には時間が取られることが多かったが、夏目田も一般人の健康意識を高めることに関心があり、そのサポートには熱心であった。 したがって、こうした理由から講演後の研究室訪問時間は未定である旨外森には連絡してあった。
階下の研究室へ行く階段の踊り場に立ち止まり、眺めの良い外をみると、研究棟を覆うドームの透明な外枠から、遠くにある夏目田の働く病院棟のあるドームが見える。
月居住基地も同様だが、火星居住基地も地球の大気と同じ空気が満たされたドームがたくさん建造され、その中に建物が建設されている。 ドーム間の移動は宇宙服に着替えて外気に出る必要はなく、そのまま通路を通って行き来する。 居住基地の拡張は、新しいドームと通路を交互に繋ぎ拡げていく。 ちなみに、基地内で慣れない所へ行く場合にはナビゲーターも利用可能である。
ドーム内では緑化が推奨されており、この研究棟のあるドーム内でも植物の栽培が盛んで、太陽光を浴びた緑が美しい。 このドームの木々の間から、このドームからいくつかのドームと通路を経ながら夏目田の病院棟のドームへと伸びる連結が目で追えた。
夏目田が外森研究室を訪ねると、外森も検査結果待ちで休憩中とのことだった。
ちょうど午後の”おやつタイム”で、外森は飲み物とクッキーを出してくれた。 普段はメールやテレワークで連絡することが多く、直に会うのは久しぶりであった。
共同研究の研究結果はその都度報告しあっているのであるが、今回の訪問で研究の流れや、調べて分かったことの解釈や、それに対する対応について話し合った。 やはり、共同研究を進めていくには、お互いを理解する上で良い訪問となった。
「わかりました、外森博士。 患者は小型魚類を水槽で飼っているが、げっ歯類のペットを飼っていないから、日常的な動物との接触から感染したのではなさそう。
また、患者DNAの再検査結果も同じなので、検査時にたまたま異物が混入した操作ミス、例えば検査器具に関係のないDNAが付着していた等の可能性もなさそう。
今の所は、患者は何らかのルートで感染を受けたと考えるのが妥当と思いますね。 ルートを考える上で、興味ある聞き取りがありましたよ。 患者はグルメクラブに出入りしていた経験があったそうで、食に対する興味が人一倍強かったと推察されます。
一般居住民は、高価な動物肉の料理を口にする機会は少ないが、患者は強い味覚への興味から動物肉を食した可能性が高いのではと思うんです。私なんかメニュにあるもので腹八分目となれば十分ですが、食に興味が強い人はいますもんね。 もちろん、月居住基地も火星居住基地も食肉が違法である規定はないですから、制限された居住基地の生活で食を生きがいにする人もいるでしょう」と夏目田博士は考えを述べた。
(次回に続く)