患者から見つかったウイルスが動物由来では?と考えた夏目田博士と外森博士。 火星居住基地内にいるげっ歯類を調べると、2種類のウイルスのうちの1つが見つかった。 それは移植可能なマウスであった。 図は、ウシ細胞でできた耳を移植されたマウスで”バカンティマウス”として知られている。 このマウスは免疫に異常があり、異物としての移植片を拒絶できない。
追記:NASAの火星探査のニュースが次々と送られてくる。 探査機パーシビアランスがヘリコプターを飛ばせたり、火星の大気で酸素を作ったりに成功。 確かに、人類の地球上のみでの存続が永遠に続くとはあり得そうもないね。
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目次
第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査(以上済んだよ)
第六章:死因の調査(今回)
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ
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・・・もちろん、月居住基地も火星居住基地も食肉が違法である規定はないですから、制限された居住基地の生活で食を生きがいにする人もいるでしょう」と夏目田博士は考えを述べた。
(以上前回まで。)
「動物肉の料理を介した動物ウイルスの感染なら、他の病死患者サンプルでも同じウイルスが見つかるかも。
動物ウイルスなら、居住区内動物のDNAを調べれば、ウイルスを保持している動物を特定できますよ。 そうすれば、病死患者への感染ルートが推測されますね」
と外森博士も提案した。
夏目田博士と外森博士は、今後居住基地内にいるげっ歯類のウイルス調査をすることにした。
外森博士は、火星居住基地に登録されているげっ歯類の家系から、検査対象動物を選択した。 各血縁の近いげっ歯類グループから代表の個体を選び、そのDNAにA氏から見つかったウイルスのDNA類似の配列を見つけようというのだ。
さすがに、いきなり全頭を検査するには時間がかかる。 まずは、血縁の遠いグループから代表を選んで調べ、あたりをつけようというのだ。 見つかれば、近い血縁の個体を調べてウイルスの分布を見てみる。
げっ歯類のDNAに調べたいウイルスに似た配列があるかどうかは、自動的に両者が比較され検索された結果が表示される。 類似度が示されるので、高い類似度では調べたいウイルスそのものが、低い類似度では調べたいウイルスが変異したウイルスも検索されてくる。
げっ歯類DNAは、動物より血液1滴を採取し、DNA配列を調べられる。 血液サンプルが用意されれば、後は遺伝子解析装置により自動的にDNA検索結果が得られ、機械まかせなのだ。 げっ歯類DNA上に見つかったウイルスの配列が、A氏で見つかったウイルス配列に似ていれば似ているほど、そのげっ歯類がA氏への感染源としての可能性が高くなる訳である。
こうしてげっ歯類のスクリーニングをしていると、移植に用いられる小動物で免疫機能に異常のある、つまり移植片を拒絶できないげっ歯類のDNA中に、検索対象のウイルスDNA様配列が見つかった。 詳しく調べた結果、患者DNA で見つかった2種類のレトロウイルスのうちの1種類のみであった。 つまり、異種指向性ウイルスはげっ歯類DNA中に見出されたが、もう1つの変異ウイルスは見つからなかった。
(次回に続く)