追伸:今年に入り、NASA探査機パーシビアランスから火星表面の映像がどんどん送られてきます。
また、今月(5月)に入って中国も負けじと火星探査機を着陸させ、探査車「祝融」からの火星表面の画像を公開しました。
地球だけでなく月、火星においても米中の競争が激しくなっています。 将来火星移住も否応なくせざるを得なくなるだろうと心配する人々にとっては、競争で探査速度が加速されると期待される良いニュースかもしれません。
今後どうなっていくでしょうか? 楽しみでもあります。
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目次
第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査(以上済んだよ)
第六章:死因の調査(今回)
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ
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予想通りD夫人の病変部から動物レトロウイルスと変異ウイルスの2つの遺伝子が検出され、抗ウイルス薬が投与された。
幸いD夫人の病気の進行は緩慢となり、患者は小康状態となった。
(以上前回まで。)
夏目田博士は患者の治療がうまくいきそうだとの中間報告を外森博士と、もう一人の共同研究者の柴里博士へも送った。
どういうメカニズムで病気が起こったかはまだ不明であり、研究は続けるのである。
だが、3博士は患者の治療法が見つかりそうだということ、つまり居住基地の人から人への原因不明の病気の伝播は防げそうだと、わずかながら安心できた。
D夫人が小康状態となり、親戚の叔父と叔母が見舞いに来た。
夏目田はD夫人の状態の説明をして終わり、世間話に入ってD夫人の父親の趣味のグルメ・クラブに至った。
「父親のXXは、月居住基地でその父親がグルメ・クラブに入っていたので本人も入ってましたよ。
私も、兄のXXに誘われてクラブに入っていた時期がありました。
私は兄ほど食に興味がある方ではなかったので、結婚を機会に辞めてしまいました。
グルメ・クラブは根っから食に興味がないと続かないじゃないかな。 お金もかかるし、家族の理解がないとねえ・・」
と、横に座っていた叔母が肘で叔父を軽く小突いた。
「私がグルメ・クラブにいた頃の映像の個人ファイルが家にまだあると思いますよ」ということで、夏目田が休日に家を訪ねることになった。
特に期待が大きかったわけではなかったが、何か役立つような情報があれば儲けもの程度であった。
連絡しておいた休日に、D夫人親戚の家を訪問したが、火星居住基地住民の住まいは集合住宅であり、一家族当たり1居住ユニットが平等に割り当てられている。
夏目田はA居住区であり、D夫人親戚はC居住区なので、夏目田は散歩とジョギングを兼ねて外出した。
到着すると、D夫人親戚も居住棟そばにある家庭菜園スペースの自宅分の作業を終えて帰宅したところであった。
グルメ・クラブは退会しているが、退職後は夫婦で食用野菜の栽培を楽しんでいるといったところのようだ。 夏目田は、せいぜい自宅では室内で観賞用植物を少し育てている程度だ。
(次回に続く)