夏目田博士が担当する入院患者のD夫人は、子供のときは”お父さん子”で、よく父親の後について行ったそうだ。
そのお父さんは食通(グルメ)で、食通仲間がつくっている集まり(グルメ・クラブ)のメンバーであった。 そのため、父親に連れられて子供の頃にグルメ・クラブを訪れたらしいのだ。 つまり、子供の頃に父親と同じ食事をグルメ・クラブで摂ったようだ。
また、医者であり研究者として忙しい夏目田博士はあまり趣味の時間が取れないのであるが、空き時間があると健康のためにジョギングをしているよ。 さらに、室内で多くはないが観葉植物を育てているらしいよ。 同じ居住空間に生物、特に緑があると気が休まるらしいんだ。
追伸:2021年5月において、NASA、アラブ首長国連邦、中国、欧州、インドの合計8機の火星探査機が活動中だそうである。
さらに、ロシアが欧州と共同で2022年に、また日本のJAXAも2024年に火星探査機の打ち上げを計画しているそうである。
各国が火星を目指す理由として考えられるのは、
(1)国民の支持が得られやすく広く活用できる分野
(2)国民の自信や国威発揚を得やすい
(3)地球での生存困難な場合に人類や生物が存続可能
だそうである(「各国は、なぜ火星を目指すのか(実業之日本フォーラム)」,2021/5/31)。
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目次
第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査(以上済んだよ)
第六章:死因の調査(今回)
第七章:ウイルスと病因
第八章:エピローグ
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グルメ・クラブは退会しているが、退職後は夫婦で食用野菜の栽培を楽しんでいるといったところのようだ。 夏目田は、せいぜい自宅では室内で観賞用植物を少し育てている程度だ。
(以上前回まで。)
D夫人親戚の自慢の自家製ハーブ茶をいただきながら、用意してくれていたグルメ・クラブの映像を見ながら説明を受けた。
火星グルメ・クラブのメンバーの写真もあったが、夏目田の見知っている人もいた。
「この人も私の退会時期と同じ頃に退会しましたね。
月や火星の居住基地では食材も地球時代に比べ制限があるので、若い人程地球の伝統料理を懐かしむ食への欲求も薄れてきているようですなあ。
今は調理や料理法をアイデアでバラエティーを増やして、お互いに紹介し合うようで、グルメ・クラブというより料理教室かなあ」
「この人達はグループをつくっており、地球のアメリカ・ヨーロッパの料理に興味がある人達ですね。
映像は手作りのピザを作っているところですね。 美味しそうだなあ。 私も好きですよ。
グルメ・クラブでも料理の好みの違いで、自然とそれぞれのグループができますね」
「クラブメンバーで病気になった人がいるかどうか?ですか。 知らないです。 特に耳に入ってきてないですね。
あっ、この人は癌でなくなったらしいです。
仕事柄、居住基地外で宇宙服を着ながらの作業をすることが多かったので、宇宙線被爆が影響してるんじゃないかと当時は噂してましたねえ。
治療も虚しく亡くなったと聞きました。
そういえば、この方も基地外での居住地区建設拡張工事の事故で亡くなったようです。
病気の人は知らないですね。
現在のグルメ・クラブ代表なら新旧メンバーリストを持ってるはずなので訊ねたらいいですよ。 私が代表に連絡しておきましょう」
夏目田は休日の訪問に気軽に応じてくれた礼を述べ、D夫人親戚宅を出た。
自宅への帰路の途中にある入院患者棟に立ち寄り、担当患者の様子を見た後、同じ建物内にあるリハビリ施設に隣接の職員用ジムで汗を流した。
平日のテレワーク診療と異なり、休日に担当患者と直に顔を合わせて世間話などでコミュニケーションを取り、その後自身の健康のためにジムを利用する医療関係者も多い。
この日も知った顔の数人が運動していた。
(次回に続く)