SF異星人カグヤ姫物語

 

 

 

 

左図:蛍 中図:蛍の乱舞 右図:竹林(いずれも”いらすとや”)

 

 異星人である赤子のカグヤ姫に対面することになる老夫婦は、伴をつれて定例の薬草採取旅行中で自営の薬草園やその近隣の里山を訪れています。 

 丁度蛍を目にする季節で、老夫婦の住む地方都市と違いほとんど灯りの少ない田舎では自然環境も保たれており、清らかな水の流れる河川沿いでは遥かに賑やかなの群れを目にすることができます。

 老夫婦達は一日の作業を終え夕刻の散歩がてら蛍狩りを楽しみます。

 蛍の群れに導かれるように薬草園のそばの竹林まで来た一行は、一節の竹が蛍のように光っているのを見つけます。 さて・・。

 

 今回の図は、老夫婦一行が薬草採取旅行先での夕刻の散策で観た風景です。

 漢方医のお爺さんは、常備するために定期的に伴を連れて採取旅行にでかけます。

 今回の場合は何かハプニングが・・?

 

  本SFショートではカグヤ姫異星人として描かれています。 

  この異星人は地球で言えば昆虫に似た生物です。 

  しかも、全く異なる2つの生物より成る社会を作っています。 

  1つは大部分を占める生物ですが、もう1つは少数派で多数派の生物に気付かれないように擬態の能力により多数派に紛れて生存しております。 

  カグヤ姫は少数派の生物に属します。

 

  カグヤ姫達異星人は、故郷の星が環境破壊などで住みづらくなり、一部は他の星での生存を期待して故郷の星を出発しました。  

  しかしながら、移住船での居住星の探索の旅の途中に仲間を感染症で失います。

  残ったカグヤ姫達の生残には、ライフサイクルの維持に不可欠なパートナーと成りうる生物を見つけないといけません。

  つまり、失った仲間がやってくれていた子孫の生育を、かわりに地球人の手を密かに借りようと企てます。

 

  また、育ての親候補は人の良さそうな老夫婦といったところでしょうか?

  候補の老夫婦は漢方薬屋さんらしい。

 

    

  異星人達は、移住可能かの判断材料のデータを現在収集中です。

  場合により、異星人達は地球を離れて新たな移住星候補を探索する旅に出なければなりません。

 

  本SFは、題名の通りカグヤ姫を含む異星人達の立場でみた物語です。

  さて、かぐや姫が出てくる「竹取物語」ですが、あらためてWikipediaを見てみますと、平安時代に成立した物語で、作者不明で、正確な成立年も未詳とあります。

  「源氏物語」の文中にも記述があり、日本最古の物語だそうです。

  9世紀後半から10世紀前半頃に成立したとされる、かなによって書かれた最初期の物語の1つだそうです。

 

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目次

第1章:異星人

第2章:地球

第3章:カグヤ姫(現在

第4章:求婚

第5章:領主三角(みかど)氏

第6章:カグヤ姫の憂鬱

第7章:帰還

第8章:エピローグ

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(前回まで)

 

 老夫婦が薬草採取に来ている里山周辺には、栽培している薬草園や村民の耕している畑、地方都市に戻る途中の平野では田、といった人手が加わった場所があるが、大小の河川は今よりはるかに生息に適しており、あちこちで大群が飛び交う風景が見られる。 

 現代人には滅多にお目にかかれない神秘さがあるが、当時の田舎に住む人々にとっても珍しくない風景ではあるが、小さな光の大群が海の渦のように舞い、その渦の中に身を委ねても決して熱くない不思議な感覚はやはり神秘的であった。

 

 

 

 老夫婦らは薬草園での作業の後に夕食をとり、何人かで散策に出掛けた。 

 昨日の散歩でが少し飛び始めていたので、本日は飛んでいる数が増えているかなと期待しながらであった。 

 予想通りにぎやかに飛んでいたので、しばらく散歩しながら観察を続けることになった。 

「今晩もにぎやかに飛んでいるなあ」

「一部の大群が薬草園の森の方へ移動しているなあ」

「何か、惹きつけるような何かがあるのかな?」

「ちょっと行ってみましょうか」

ー「森の低いところに広がって、まるで光の海の中から木が生えているようだわ」

「あそこの大きな竹の節が特に明るく大きく光っていますね」

「大きな光だなあ。蛍が一箇所に集まっているのかな」

「ちょっと、そばに行ってみましょう」

ー「蛍の集合でなくて、竹の節の一部が光っていますね」

「我々が近づくとより明るくなりましたよ」

「ちょっと離れてみましょう」

ー「ほら、明るさが弱まった」

「やっぱり、近づくと明るくなりますよ」

「まるで我々の存在を感知できるみたいだ」

「よし、明日またここに道具を持って来よう。 明日も同じようならこの竹を切ってみよう」

「誰か目印をつけてくれ。 ひもを巻いとくれ」

 

    翌夕方少し早く老夫婦は伴を連れて、ひもで目印をつけた光る竹の場所にやって来た。 

「まだ辺りは暗くないですが、なんだか竹の節が光っているようですよ。 蛍はまだ周りに居ないのに」

「そうじゃなあ。おまけに、よく見ると明るさが周期的に変わっとる」

「なるほど、我々にこちらへ来いと呼んでいるようですね」

   お爺さんは光る節の部分を傷つけないようにして竹の上下を切り離し、取り出した節の部分の中身を傷つけないように、慎重に回りを削っていくよう指示した。 

 少しずつ中の様子が見えてきたが、節の中に白い膜で囲まれた物があるようだ。 

 しばらく様子を見ていると、丸い白い物はゆっくりと動くようだ。 

 慎重に外を触ると、中は柔らかく弾力があるものが充填されている中で、動く物があるようだ。 

 動く物の回りに柔らかい充填剤が詰められている感じであった。 

    理由は分からないが、穴のない膜に包まれて生き物らしきものがいるようなので、お爺さんの指示で膜の表面に少しずつ切れ目を入れていくこととなった。 

 もし、生き物であれば窒息の恐れがあったのだ、大丈夫か? 

 切れ目が広がるに連れ、少しずつ中の様子が見えてきた。 

「あれ?これは赤子の手に見えるが・・」

「赤子らしいので、頭の部分が外に出るように膜を切って息をさせて!」

ー「驚いたなあ。こんな中にいて無事に生きているぞ」

「今晩はすぐ宿舎に帰って赤子の世話をしなきゃ」 

 突然のことなので、一行はとりあえず薬草園の宿舎へと連れ帰り、赤子対策を考えることにした。 

 赤子は生まれてすぐに産声をあげるのだが、この子はよく観察すると昼寝をしているように見えた。 

 竹節の中に居たにも関わらず静かに呼吸ができていた。 

 さらによく見ると、頭部は透明膜に覆われていて、膜の中身は液体が満たされており寒天様の大小の固体が浮遊していた。 

 お爺さん達は扱い方が分からなかったので、切り出した竹を乳母車代わりにして宿舎に連れ帰ったのだった。

 

       

(次回に続く)