怪死の原因を究明している夏目田博士、外森博士及び柴里博士のグループを中心に、今日までに明らかになった研究成果の発表が公開セミナーという形で行われた。
その中で、居住基地住人の怪死の原因となったウイルスがどのようにして人に侵入したかについて、研究者達が至った結論を簡単に上図に示す。
左図は、げっ歯類の遺伝子内に潜伏していた(異種指向性)レトロウイルスが、先天的な免疫機能不全に加え、ウシ筋肉細胞(癌細胞でない)の移植のストレスで感染力を持つウイルスとしてげっ歯類細胞の外に出てきたところ。
中図は、げっ歯類体内に出てきたレトロウイルスは移植されたウシ(筋肉)細胞により感染しやすく、感染するとウイルス遺伝子が細胞内部に入っていく。
感染を繰り返すと、ウシ遺伝子の一部を取り込んだ変異ウイルスが出現する。
右図は、ウイルスが感染したウシ細胞が、げっ歯類の体で成長して大きくなり細胞塊となると、取り除かれて人の食材の肉として利用された。
食用にはウイルスを殺菌する加熱処理が原則必要であったが、図のように生食や加熱不十分の料理では感染力のあるウイルスが残る。
このウイルスの中には変異ウイルスが含まれる。
変異ウイルスが優勢になるほど移植塊は小さくなる。
この料理を食べた人で、免疫力が未発達の小人や低下状態の人は感染を受けて変異ウイルスの侵入を受ける危険がある。
なるほど、こうして危険なウイルスが体にはいってくるんだなあ・・。 段々と分かってきた感じ。
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目次
第一章:腫瘍の分離
第二章:火星居住基地での奇妙な死者
第三章:遺族への聴き取り
第四章:グルメクラブへの訪問
第五章:食の調査
第六章:死因の調査
第七章:ウイルスと病因(現在はここ!)
第八章:エピローグ
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げっ歯類にとっては、負担がとれるので次第に元気になる。
変異ウイルスにとっては、自分の増える場所がなくなり、おとなしくげっ歯類の細胞の中に潜むようになる。
げっ歯類はウイルスに助けられた形だ。
(以上前回まで。)
ちなみに、げっ歯類に癌を起こした変異ウイルスはげっ歯類由来の遺伝子を取り込んだウイルスであった。
このげっ歯類由来の癌遺伝子は、本来は細胞の増殖を促す機能があるのではあるが、癌遺伝子になると正常細胞の制御を外れて無限に細胞を増やしてしまう。
正常な免疫能を持っていてもこの癌細胞の増殖を抑えきれずに、終にはげっ歯類に死をもたらすのだ。
癌遺伝子を持つ変異ウイルスは、結局げっ歯類が死亡するため子孫ウイルスを残せない。
一方、居住基地の怪死の原因となった変異ウイルスは、その居場所である移植片をげっ歯類から排除して、げっ歯類に生をもたらした。
変異ウイルスは、げっ歯類の体の一部に大人しくその遺伝子内に潜んでいられる。
げっ歯類の生死には正反対な働きをした2つの変異ウイルスであったが、怪死の原因ウイルスは感染先をげっ歯類からヒトに変えることにより、ヒトには死をもたらしたのである。
話を戻すと、げっ歯類から取り出されたウシ筋肉細胞塊はスライスあるいはミンチにされ、食材として供給された。
食材に広く変異ウイルスが混入していても、加熱した場合にはウイルスは死滅するので食品衛生上問題なかったが、加熱不十分や生食の場合には感染力のあるウイルスが残り、食事を通して人体内に侵入し、細胞に感染し潜伏できた。
時間を経て高齢や病気により免疫機能が低下すると、潜伏ウイルスが感染細胞内で増え始め、人体内で感染細胞に死をもたらした。
このウイルスは、げっ歯類細胞は殺さないが、ウシ細胞に進化上近いヒト細胞はウシ細胞同様に殺せるのだ。
その結果、感染臓器は機能しなくなってしまい、残っている正常な臓器だけでは体全体の恒常性を維持できずに人は死亡した。
しかし、レトロウイルスが病気に関与していれば既存の抗レトロウイルス薬が治療に使える可能性がありそうである。
今後治療に使用するため申請の準備中である」
グループの報告会で共同研究の成果が得られ、治療にも目処が立ちそうで、参加研究者は和気あいあいと散会した。
今後も機会があれば、グループ参加研究部門が相互支援していくことで合意した。
(次回に続く)